内閣は「不敬事件」の責任をとるために全員が辞表を提出(摂政はそれを保留とします)。司法大臣平沼騏一郎は翌日引責辞職、内務大臣後藤新平は自宅に謹慎、警視総監湯浅倉平と警務部長正力松太郎は懲戒免官。右翼は内務大臣邸や警視庁に暴れ込みます。不思議なのは、オートバイ警護をはねつけた宮内省からは誰も辞表を出すものがいなかったことです。もっともオートバイ警護は即座に実行されるようになりましたが。官僚って“そんなもの”なんですね。
肉親や友人に対する厳しい取り調べが行われ、家族は結局「姓」を変えることになりました。「難波家」の断絶です。大助は父親への“復讐”を完遂しました。
裁判では難波大助を「精神異常」にしようと裁判官が努力します。ところが精神鑑定をした東京帝大教授・呉秀三は「精神障害はない」とします。おや、この人の名前も見たことがあります。去年の8月13日に読書感想を書いた『精神病者私宅監置の実況』の著者ではありませんか。裁判は公開されず、さっさと死刑が言い渡されます。執行は判決言い渡しの2日後。いやあ、スピーディーです。山口県民は「総懺悔」を行い、県民の保守化はさらに進むことになりました。
この虎ノ門事件は結局日本にとってどんな意味があったのか、とちょっと考えてしまいます。少なくとも難波大助の行為は日本にとってなにか良いことをもたらしたとは見えませんから。あ、警察を馘になった正力が読売新聞を発展させ読売巨人軍や日本テレビを創立したのは“良いこと”かもしれませんね。